=  8 人類の自己意識の正統性 =

【自分の心と人類の心】

 

 20世紀の哲学者サルトル(フランス)は、外界の現実は私たちの働きかけによって、「そのような現実」になっている。外界の現実というのは私の一部であり、切って離すことはできないが故に、自分の行動の責任はすべて自分自身に跳ね返ってくる、と告げた。 

 

 責任云々という論点は別にして、外側の社会は、実際に人間が創り上げたものなので、私たちの暮らす街の営みには、「私自身の考えや行為」が多少なりにも影響を与えているのは事実です。

 

 また、内的に考えてみると、「自分」と「外界」の関係は、「自分の心の世界」と「自分を含む人間の心が作り上げた世界」(人類の心)の関係と言い直すこともできます。つまり、自分の心が人類の心に働きかけをする一方、人類の心も自分の心に働きかけを行っています。

 

 美しい芸術は生命を繁栄に導く性格にあり、芸術家は、意識的・無意識的に地球生命の存続につながる「普遍的な価値」を創作し、人々に「大切なものは何か?」を提示ので、世界の人々が作品を鑑賞し、各民族の歴史を超えて共鳴することで、世界の人々の共鳴により生まれる「人類の心」への働きかけが可能になります。

 

【人類の自己意識の創造】


  

 全人類がひとつつになって力を合わせ、世界政府(人類の自己意識)を誕生させて、6タイプの国家により世界の均衡を保つようにする。

 

 この世界政府の目的は、「すべてのタイプの国家から一定の距離をとりつつ、世界を統制すること」です。たとえば、ある情勢において、君主国家(愛情機能)がある愛のために戦うべきだと主張した場合、その結果がもたらす実害を考え、他国(別のマインド機能)の意見を聞き、調整を図りながら最終判断を下す、という具合です。 

 

【世界の意思決定を導く】

 

 この人類の自己意識の構築には、まず、二つの要件が必要になります。

 

◆ 第一に、人類の自己意識は、確固とした大義を有して、異なる価値観を有する国々の訴えをまとめ上げる必要があります。この大義は、「美」の価値がよいでしょう。生命の繁栄を支える美の価値は生命的なものとして人々の感性に宿り、人々の自己意識の判断に絶対的な根拠を与える中で、地球全体を調和に導けるからです。

 

◆ 第二に、人類の自己意識には確固とした正統性が求められます。美による大きな意思決定を行う際、美に続く善、善に続く真にも注意を向け、「そもそも何が美・善・真なのか?」ということを明確にして、人類の自己意識の権威を示す必要があります。

 

 この正統性を担保するため、私たちは美しい芸術を発展させて、人々の美意識を洗練させていく必要があります。美しい芸術作品が互いに競い合う中で、時代や民族を超越して、永遠に人間的なもの、普遍妥当性を持つものへと芸術を飛翔させる。

 

 宇宙や地球に宿る「美」を、芸術家らが時代感覚をもって美しく繊細に表現し、それぞれにメッセージを送れば、最初は小さな共鳴でも、ネット交流を通じて拡散し、やがて人々の美への静かで大いなる共感なるでしょう。

 

 その上で、大多数の善良な人々が思い描く、その時代にふさわしい生命繁栄のスタイルを描き出すことで、大きな意思決定を導くことができます。 

 

【芸術を頂点とする制度】

 

  近年、これまでになかったほど世界は、情報機器によってつながっています。このような世界において、芸術(美)の頂点を目指す仕組み作りは、決して夢物語ではありません。 

 

 人間の「美的感覚」とは、美しいものに対する個人の判断になりますが、純粋な美しさには地球保存・社会保存を促す作用、万人に共通する原理があります。それらの美の価値を深く掘り下げ、世界中の人々が大いなる一体感を感じ取れる様になることで、美しい芸術は民族的な差異や主権を弱め、新しいグローバルな文化を育むことになるでしょう。

 

 さまざまな国に暮らす人々の勇気と創造力によって美しい芸術を生み出して団結し、情報の共有によって人類の集合知を作り上げれば、私たちは一体となって地球規模の判断を下して前に進めるはずです。

 

【個々の尊厳=共創】

 

 世界政府による新たな秩序作りは、誰か一人の思いや、何か一つの考え方やビジョンでできるものではありません。

 

 人々(個々の自己意識)の尊厳が尊重される中、芸術の表現を介して、多様性溢れる人々が、ひとつになって思考する。その中で、国際情勢の変化に応じて、「どのような世界を作っていくべきか?」を話し合い、問題解決のための最適なアプローチを探し出す。

 

 そのため、世界政府(人類の自己意識)を共創し、より深い協力関係を築き、互いの認識を変えていく必要があるでしょう。

   

【6価値の分立】

 

 世界政府(人類の自己意識)を樹立した場合、6タイプの国家(各マインド機能)の性質も考慮し、適切な役割分担をすべきです。たとえば、今の時代、次のような役割分担が考えられます。

 

自己意識(世界政府);世界の立法・司法・行政、

           国境管理、警察力 

 

直感機能(神権主義);豊かな自然や生態系の保護、人々の感性による世界文化の発展

精神機能(民主主義);善い哲学による世界統一の制度作り 

思考機能(エリート主義);真の科学による医療、クリーンエネルギー、宇宙開発

肉体機能(軍国主義);美しい芸術の普及、スポーツの発展、治安維持

愛情機能(君主主義);世界の子供たちの平等な教育と健康、食品の衛生管理

集団機能(共産主義);自由な労働スタイルの創造と雇用安定、高品質な製品作り

 

 人類の自己意識(世界政府)は、6つのマインド機能の能力を世界政府のメカニズムの中に組み込む一方、時代の流れに合わせながら、人々の美意識を軸とした総括的な判断を下していくのがようでしょう。

  

【芸術的民主主義】

 

 たとえば、民主主義国家の場合であれば、 

 

立法:国家の営みに統制をかける【ルール:国民の代表←国民の美意識の集計←美しい芸術】

行政:ルールに従い運用システムを構築する【システム:官僚】

司法:人や組織の違反を罰する【ジャッジ:裁判官・陪審員】

芸術:ルール・システム・ジャッジ機能の逸脱をチェックする【セーフガード:芸術家】 

  

という具合に、民主国家に暮らす人々の感性を高め、それらの美意識を通じて国家のシステムを構築し、点検し、修正していくようにします

 

 一人の選ばれたリーダーが国家の重大な判断を下すのではなく、IT技術を活用して、人々の集合知がその時代にふさわしい「国家のスタイル」を模索する。そうすれば、複雑に分業化した社会でも、偏りのない意思決定を導けるようになるでしょう。

 

【世界全体をアートする】

I am not an Athenian or a Greek, but a citizen of the world.
われはアテネ人にあらず、ギリシア人にあらずして世界市民なり。

 

 人間社会のルールは、私たち人間によって作られ、試され、時間の経過の中で完成され、さらに、未来の世代によって再評価され、変えられ得るもの。そのルールある法の世界において、現代に暮らす私たちは、「法の樹木」に巣くう害虫、科学技術に伴う環境破壊、物作りを中心となる資本主義の成長限界など多くの難題を抱えています。

 

 これら解決の第一歩になるのが、人々による美しい芸術の推進です。醜勢は制度を不当に利用する方法や抜け道を見つけ出す一方、人々の怒りと不公平感を増大させて国家の分断を図ります。

 

 だからこそ、芸術家が現代社会の問題の本質を浮き彫りにする中で、声を挙げて、多様性を認める社会規範の構築に貢献する必要があります。さまざまな鑑賞者の自己意識が、美の本質を悟る中で得た感覚は、大いなる叡智を生み出し、結束して世界政府(人類の自己意識)の発展に寄与することになるでしょう。

  

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