= 6 対立する機能の融合術 =

【イメージ設計から行動へ】

 

 エスプリ画を根気強く描き、その絵図から浮かぶセルフイメージを案内人とすれば、混迷する社会の中でも、自らの道を切り開いていけます。たとえば、人生の目的に「腕利きのシェフになる」と掲げた青年が、「調理人」を主題とする一枚のサイドエスプリ画を描くとします。

 

 彼はまず、調理学校に通って、目を凝らし、耳を澄ませ、ベテランの調理人が語る世界、彼らの目に映る世界を理解しつつ、自宅で調理の研究を進め、理想のシェフ」とはどのような人物かを見極めてゆく。

 

 自分のイメージ力を駆り立て、調理師を目指す上で大切な事柄(信念・知識・技術・環境・方向性など)は何かと考えてみると、重要と思われるキーワードが心に次々と浮かんでくる

 

 次ぎに、エスプリ画の基本形を描き、それぞれのキーワードをエスプリ画の6領域に振り分けます。そして、各領域ごとに、集められたキーワードを手掛かりに目標課題を定めて、将来のシナリオを明確にします。【第2巻、第3巻】

 

【予想外の出来事に備える】


 

 将来のシナリオを示すエスプリ画を眺めると、その青年は理想の調理人を鮮明にイメージできるでしょう。しかしながら、自分の描いたイメージを追いかけて、各目標や課題に取り組んでみると、調理の世界にあるいくつもの現実に出会い、予想外の出来事に翻弄され、多くのミスをしてしまうはずです。その主な理由としては、、

 

・外界の問題として社会は常に変化しており、周りの状況が刻々と変わってゆく。

 

・内界の問題として人間は常に変化しており、自身の未熟さや無知を抱えながら成長している。

 

・エスプリ画もそこから生まれる実践イメージも完成された状態にはない。 

 

 よって、目的達成に向けた活動をする時期、変化適応力、自己成長力、エスプリ画の完成度という三つの向上を念頭に入れて、エスプリ画を描いていく必要があります。その積み重ねにより、理想の自分と現実の自分との差が徐々に縮まっていくでしょう。

 


【部分的な手直し】

発達的変容
He who would learn to fly one day must first learn to stand and walk and run and climb and dance; one cannot fly into flying.         - Friedrich Nietzsche -

 

 試行錯誤しながら前に進もうとする場合、自らの神経を最大限に研ぎ済ませて「大きなミスの防止」を図ることが重要です。この点、事前の徹底した情報収集を通じて主題に関する全体・部分のイメージをつかんでいると、修正すべき部分的なポイントが理解できるため、大きなミスを最小限に留められます。   

 

 日々の取り組みにおいて重要なのは、小さなミスは一つ一つ改めつつ、エスプリ画に追加削除を加え、時には、エスプリ画そのものを描き直して軌道修正を図ること。たとえば、料理人の立場から美しい芸術(生命の繁栄)について何ができるかを考えてみたところ、新しい料理のコンセプトが生まれたのでそれに合わせてエスプリ画を作り直した、という具合です。

 

 日々、エスプリ画に手を加え、全体構図を整えていると、「この部分は作り直さなければならない」という気づきを得て、部分修正が感覚的にできるようになります。6つの領域を通じて、自己の強みや弱みまでも把握できるようになるので、弱点克服にパワーも時間も集中できます。その結果、効率的な活動成果につながるでしょう。

 

【思考と直感の組み合わせ】

  

 6つのマインド機能ごとの目標や課題に取り組む中で、すべてのマインド機能を十分に働かせるのが肝心です。特に、大きく対立しやすい思考機能直感機能の役割を意識して活用してください。

 

 私たちの自己意識は、平時であれば、思考による情報収集と分析だけで行動の選択ができたとしても、非常時では、直感による本質の見極めが求められる場合があります。しかし、「自分にとって何が得か?」という合理的思考にとりつかれていると、直感の声は聞こえません。

   

 自分を納得させようと取り繕った考えが、純粋な直覚を退け、実際、自分は本当にどう感じているのかを理解できないからです。

 

 そのため、様々な経験を通じて自分の心を見つめ、心に何が生まれているのかを観察することが重要になります。人間らしい多様な生き方を続ける中で思慮深くなり、静かな心で直感に耳を傾けると、その声は、科学的な理論や哲学的なルール以上に説得力をもち始めます。

 

【知性を超える感性】

 

 私たち人類の知識にはまだまだ限界があります。理性の入り込めない広大な未知の世界に対し、私たちは畏敬の念を持ちつつ、真実を知りたいと願い、自ら問いを発することで、目の前にある扉は開き始めます。「答えなどは得られないこと」でもあきらめず、真理を求め続けることが大切です。 

 

 美しい芸術の創作を通じて、感性的な説得力を高めることで、私たちは学校で学んだ知識(思考)に自らの洞察(直感)を加えながら、独自の理論体系を作り上げることが可能になります。 

 

 科学的な領域(仮説、検証、発見、考察など)にて理論的な基礎を構築し、頭を整理した上で、科学では判明しない領域について、世の中の常識をかなぐり捨て、自身の直感的な感覚(閃き、洞察、推知、開悟)を頼りに空白を埋めていきましょう。 

 

【独創的な理論体系】

 

 あなたが科学者として学術論文を書く場合なら話は別です。しかし、自分の人生の道を進む中で培う自分のための理論であれば、一つの現象や出来事(原因と結果の因果関係)に関して、科学的に考えるだけではなく、哲学的・芸術的な考察を加えてゆくことが可能です。

 

 そうして生まれる思想体系は、自らの体験をベースにした独自のものとなりますが、一旦、全体の整合性を確保すると、その思考フレームの中で、物事のメカニズム因果の推測や、道理展開の洞察ができるようになります。  

 

 知性の領域では説明できないあやふやな事柄や目に見えない事柄に関しても、鍛え抜いた感性的説得力を行使することで自分なりの洞察ができるでしょう。(このエスプリデッサンも、今の時代、札幌に生まれた著者の学習と経験により作り上げた独創的な理論体系になります。) 

 

【己の道を信じる】

 

 あなたの自己意識が、エスプリ画を介して生みだした独自の理論を活用して判断を下した場合、たとえそれが失敗に終わった場合でも、あなたのマインド機能は激しく反抗することなく納得してくれます。

 

 あなたの自己意識はエスプリ画を描く中で、6つのマインド機能を美・善・真に深く関与させ、それぞれ活性化させることで心の互恵的な均衡と調和を保っているからです。

 

 

The most important part of teaching is to teach what it is to know. Simone Weil
教えることの最も重要な部分は、知るとはどういうことかを学ばせることです。